2024年05月21日
ロックとスミスの「道徳」とルソーの「正義」

『贈与経済2.0』(荒谷大輔 翔泳社)
第2章 理想の社会をつくろうとする試みはなぜ失敗し続けるのか
第2次世界大戦とは、ファシズムとは、いったいなんだったのか?
さらには戦後民主主義や資本主義VS共産主義とは、みたいな問いに対して仮説を与えてくれる1冊。
著者は、その根本には明確に対立するはずの2つの「近代化」が同居した状態が現在の戦後民主主義であることを説明します。
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ロックの社会契約論:自然状態で私的所有権が認められている
ルソーの社会契約論:「私的所有」こそが互いに競争し合うようになった原因
ルソー:共同体の「一般意志」を自分の意思とイコールにすることで「自由」を得る
⇒福祉国家としての共同体のあり方を提案
資本主義経済における「自由」:ひとりで「ほっといてくれ」
ルソーの自由:共同体へと自らを積極的にコミットさせること
ルソーの平等:社会福祉を通じた富の再分配によって実現されるべき
資本主義経済における道徳:市場原理のフェアネスを守ること
ルソーの道徳:みなで共有される一般意志
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なるほど。
そのルソーの影響からマルクス主義とファシズムが生まれる。
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マルクス主義のように理念を共有して共に社会を変えていこうとするルソー主義的な社会改革の運動が構造的に持つ陥穽として、「一般意志」への強制が起こる。そこには「私は違う意見である」という「自由」はありません。だからこそ「異分子の排除」が起こってしまう。
ファシズム:民衆の感性に寄り添って、一部資本家による政治・経済的支配を脱して格差を排した平等に生きられる社会を目指した。「植民地の解放」や「(高利貸しをしていた)ユダヤ人の排斥」などが起こった。
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したがって、第2次世界大戦の対立軸としては資本主義VS反資本主義と言える、と著者は言います。
そして知っての通り、資本主義が勝利するわけですが、なぜか資本主義側が植民地の解放を行うのです。
著者によればそれは、
1 資本主義が「悪」とみなされる契機を減らすこと
2 植民地を解放しても宗主国として得てきた利得を放棄せずに済む方法が開発されていた
2については、本書にあるような
アメリカの「モンロー主義」における中南米地域への介入
などが挙げられますが、詳しくは本書を。
さらには、明確に対立していたはずのルソーの社会主義を各国が取り入れ始めたのです。
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生存権を中心とする社会権や国際人権宣言などルソーが提示した財の再分配を行う「平等」が憲法に取り入れられるようになっていきます。
私たちが知っている戦後民主主義は、こうして資本主義経済の「道徳」とルソー主義的な「正義」が同居するかたちで成立することとなりました。しかし両者の「近代社会」は単に異なるだけではなく鋭く対立するものでした。
「戦後民主主義」として私たちが知っているものは、対立する2つの理念が調停不可能なかたちで同居する極めて特殊な政治形態と考える必要があります。
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なるほど。
これは短い文章で現在の(政治)社会がどうしてこうなっているのか?を説明されていて、非常に勉強になります。
資本主義に対立するものとしてのルソーの社会主義
それは共同体における「一般意志」の共有を前提としており、
それこそが「異分子の排除」に直結している。
資本主義に対するオルタナティブな活動。
それは端的に言えば、「自由」と「平等」を得るための何か、であるだろうと思う。
しかしそれがルソー主義に基づいている限りは、共同体の一般意志が強制される場をつくってしまう。
もうひとつの道があるのではないか?
と著者は問いかける。
先を進めるのが楽しみな1冊です。
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